ICUの知識

【ECMO】看護師が理解すべき回路の仕組みと酸素運搬のヒミツ〜SpO2が低くても大丈夫??〜

皆様こんにちこんばんは!現役ICU・認定看護師のNパパです!

Nパパ

この記事では以下のことを説明してます!

  • ECMOの回路構成
  • 機器の役割
  • 人工肺の構造
  • 酸素需給バランス
  • V-V ECMO下でSpO2が低くても大丈夫な理由
  • ECMOで輸血をたくさんする理由

ECMOを受け持った時にこんなことを聞かれたことはありませんか?

ピコ様


この人の循環はどうなってるの?

ECMOのカニューレの先端はどこにあるの?

この人SpO2が90%以下だけど大丈夫なの・・・・まだまだある泣。

なんてことはないでしょうか?

Nパパ

もうこうなると頭の中はパニック!!普段の業務さえもダメダメになってしまいます^^;

ということで今回はECMO回路の仕組みと酸素の需要と供給について解説したいと思います!

今回は前回に引き続きシリーズ第二弾になります!

ECMOとは?ということが知りたい方は下記の記事を参照にしてください^^

  1. ECMOのコンセプト
  2. 酸素需給とECMOの回路構成今日はココ!
  3. ECMOの導入初期の注意点
  4. ECMO中のチェックポイント
  5. Awake ECMOとリハビリ

ということで今日も一緒に学習していきましょう!

回路の仕組み

まず全体像をみてみましょう。

ECMO回路の全体像
  • 大腿静脈から脱血
  • 内頸静脈(先端は右房付近)に送血

このセッティングで示すとこのようなイメージになります。

各部位の役割はこのようになっています。

  • 人工肺:人工肺を血液が通過すると拡散によってガス交換が行われる
  • 遠心ポンプ:遠心ポンプを回転させて回路から血液を吸引する
  • ①コントローラー:遠心ポンプの回転数の制御をはじめフロー(ECMOの血流量)やアラーム等のモニタリングができる
  • :人工肺に供給する酸素濃度が調整できます
  • :人工肺に供給するガス流量(スウィープガス)を調整します。

ガス流量は通常の酸素流量計と同じで、ここで設定された流量が緑のガスラインを通って人工肺の「中空糸」に流れていきます。

Nパパ

中空糸(人工肺の構造)については次の次の項へ!

人工肺の構造

人工肺の内部には「中空糸」と呼ばれる細いストロー状のものがギュッと集まってできています。

この中空糸は「半透膜(薄い膜)」となっていて、内部をガスが流れてその周りを血液が流れることで「ガス交換」が行われて血液が酸素化されます。

人工肺には1分間あたり3〜4Lの血液が流れます。

Nパパ

CRRT(持続透析)の血液流量が100ml程度であることを考えるとなんと30〜40倍!!

ちなみにガス流量を増加させると人工肺の中で血液とガスの接触する膜面積が増加し、血液中のPaCO2は減少します。

なのでECMOの場合は酸素化をFIO2で調整して換気はスウィープガスで調整をします。

Nパパ

膜面積を増加するには人工肺を2つにする場合もあるよ!

おすすめ書籍①】

下記リンクの本は会話形式なのでとにかく読みやすい!NパパもICU時代にこの本のおかげでECMOを楽しく学べました^^

ちなみにECMOの記事は主にコチラと後に書いてある②の書籍を参考にまとめています♪

ECMO中の血液循環の経路

循環の経路はこうなります。

ものすごく端的に説明すると自己肺をなかったことにして、ECMOの人工肺に置き換えるというイメージです。

循環の流れとしては以下の通りです。

循環の流れ
  1. 下大静脈に留置された脱血管から静脈血を吸引
  2. 遠心ポンプで回転数を決めて流量を調整
  3. 人工肺を通過する際にガス交換が行われる
  4. 酸素化された血液は内頸静脈(右房の近く)に留置された送血管から右房に流入
  5. 酸素化された血液は右房→右室→肺動脈を流れて肺循環へ
  6. 自己肺を通過し肺静脈→左房→左室の順で体循環へ

V-V ECMOは再循環に注意!

④を見ると脱血・送血カニューレはそれぞれ右房に近い位置に留置されていることが分かります。

そうすると酸素化して送った血液をまた吸引してしまう「再循環(リサーキュレーション)」という現象が起きることがあります。

これによってガス交換効率が著しく低下してしまうので、脱血側の酸素飽和度が著しく上昇していないか(酸素化している血液を脱血するため酸素飽和度が上昇)というモニタリングが重要です。

SpO2が低くても大丈夫?酸素需給の秘密

ECMOを導入したらバイタルサインのDr.コール基準がSpO2<87%に変わった!

ピコ様


ECMOで酸素化されれば100%にはなるんじゃないの?!

こんなことはないでしょうか?

Nパパ

V-V ECMOの場合どうしても生体に供給される血液の酸素飽和度は100%にはならないんです。

そしてSpO2が低いことはあまり問題になりません。

その答えは「静脈の循環経路」と「DO2(酸素運搬量)」にあります。

Nパパ

もし時間がなくて結論だけ知りたい方は目次から

”V-V ECMOはヘモグロビンの維持が鍵となる”の項に飛んでください^^

おすすめ書籍②

この記事の内容が物足りない方はこの本がおすすめです♪

この本は海外の書籍を日本のECMOに精通した複数の医師が翻訳しています。

少し硬い印象はありますが、基本の生理学から終末期のことまで幅広く学ぶことがでる一冊です。

上半身の静脈血は人工肺を通らない

静脈の経路を見てみましょう。

全身に酸素や栄養素を供給した動脈血は静脈血となって最終的には「右房」に戻ります。

ここで重要なのが

  • 上半身(脳を含む)の静脈血は上大静脈から右房へ
  • 下半身の静脈血は下大静脈から右房へ

ということです。

次にECMOを導入した場合の経路はこうなります。

下半身を灌流した血液は下大静脈経由で右房に戻るので、脱血管から吸引されてECMOの人工肺に流れていきます。

Nパパ

脱血は下大静脈(右房付近)からです!ここがポイントです!

一方で脳を含む上半身を灌流した静脈血は途中で脱血されずに右房に流れます。

つまり上半身を灌流した血液はどうしても全ては人工肺を通れないということになります。

ということは全身に流れる血液は

  • ECMOで酸素化された血液
  • 上大静脈経由で流れてきた酸素化されていない血液

この2つの血液の混合になります。

正確にはこの2つの血液は「自己肺」を通りますが著しく障害されているのでガス交換は期待できません(素通りと同じです)。

これがECMOを行っても全身を流れる血液が100%にならない理由です。

【ECMO下での血流】

上半身(脳・上肢・顔)の血流はおよそ30%と考えると理論上、ECMO下では70%が人工肺で酸素化された血液・30%が酸素化されていない血液が混ざったものが全身を灌流しています。

SpO2<90%でも平気なのはヘモ○○○○が関係?

酸素化としてSpO2をモニタリングしてもその運搬を考えることってあまりないと思います。

Nパパ

実は酸素運搬で重要なのは普段の採血の中でよく見かける「ヘモグロビン」なんです!

その理由を説明していきます。

用語の整理

■PaO2:血液に溶け込んでいる酸素の分圧

■SaO2:動脈血中でヘモグロビンと酸素が結合している割合

酸素分子はヘモグロビンと結合することで効率よく全身を酸素を供給できます。

酸素運搬はDO2(Delivery O2=酸素運搬量)と呼ばれる用語で表します。

酸素運搬については計算式を見ると理解しやすいです。

ピコ様


また計算式と英語・・。ブツブツが出てきたわ・・。

計算式&英語恐怖症の方も大丈夫です!!笑

重要なのは計算式を覚えることではなく、中身を理解することです^^

まずDO2の式を表します。

オエっと吐き気を催した方も大丈夫です!!まだついてきてください!!笑

ピコ様


心拍出量は私でもスワンガンツで見たことがあるわ!笑

一方で「酸素含有量」については馴染みがないと人が多いのではないでしょうか。

酸素含有量(CaO2)とは「1dl中の動脈血に含まれる血液に取り込まれている酸素の量」ということを表しています。

Nパパ

まだ分かりづらいですね^^;

もう少し詳しく解説します!

この式を見るとCaO2は①と②を足したものということが分かります。

※文献によっては1.36ではなく1.34とする文献もあります。

①の式はヘモグロビンにひっついている酸素の量

②の式は血液の液体成分に溶け込んでいる酸素の量

これを表しています。これを見ると②に関してはPaO2にかけている数字が0.003と非常に小さい数であることが分かります。

つまり酸素運搬量で重要なのは「CO」「Hgb」「SaO2」であることが分かります。

Nパパ

なので②の式は無視しましょう!!笑

さてシンプルになりましたね^^

10をかけているのは血液1dl中の酸素含有量なので1Lの単位にするためです(1dl=100ml 100ml×10=1L)

結論としてはヘモグロビンとCOが重要

先ほどのシンプルになった式から結論をいいますと

SaO2は100%だとしてもかける数としては1にすぎません。

つまり酸素運搬量を効率よく増加させるには

  1. 心拍出量(CO)
  2. ヘモグロビン

この2つになるということです。

V-V ECMOはヘモグロビンの維持が鍵となる

通常V-V ECMOは循環のサポートはできません。

なので循環が問題ない患者さんに行われます。

ということは呼吸ECMOを行っている患者さんの管理で重要なのはヘモグロビンをモニタリングし適宜補充を行う必要があります。

ピコ様


だからECMOの患者さんってあんなに輸血をしていたのね!!

SpO2<90%でもOKという理由は「ヘモグロビン(と心拍出量)」が維持できていれば全身の酸素運搬は維持できるということでした^^

酸素運搬と看護ケアへの応用

例えばECMOを行っている患者さんで貧血が進行していたとします。

医師が朝の採血を見て

当直明けDr.

赤(RBC)4単位オーダーしたから日勤でよろしくねー。

と指示されたとします。

他の術後患者さんを受け持っている人たちは全身清拭を始めています。

ピコ様


輸血届くまで時間かかるから流れにのって清拭しよ!

これは臨床あるあるだと思いますが答えは「今はやらない方が良い」

ということです。

なぜかというと「ECMO下ではヘモグロビンが酸素運搬の鍵」と説明しました。

つまりこの患者さんは原因はともかく貧血が進行して酸素運搬量が減少している状態です。

この状態で清拭を行うと何が問題か?

これは酸素消費量が増加して組織への酸素供給はさらに低下します。

生体への酸素供給はin/outバランスと同じで

この2つのバランスによって成り立っています。

このことは酸素の「需要」と「供給」から「酸素需給バランス」とも呼ばれたりします。

全身清拭は歩行などと同じで酸素消費を増やします。

なので体はキレイになるかもしれませんが、患者さんにとっては負担につながります。

これはECMO患者さんのみならず、全ての患者さんで同じことが言えます。

「苦しい」「痛い」と言っている患者さんに清拭をしますか?

特に重症な患者さんは自分から言葉や身振りで伝えることは難しいです。

だからこそ看護師がアセスメントして判断するということが「看護」なのだと思います。

まとめ

  • ECMO下でも全身を灌流する血液のSaO2は100%にならない
  • 酸素運搬量はヘモグロビンと心拍出量の維持が重要
  • 呼吸ECMOの患者さんはSpO2<90%でもOK
  • 看護ケアを行う時は酸素需給バランスを考える
Nパパ

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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