ICUの知識

【看護師向け】ICUにおける痛み(疼痛)と鎮痛薬のまとめ

皆様こんにちこんばんは!現役ICU・認定看護師のNパパです!

今日は前回の鎮静に引き続き集中治療のキホンである「鎮痛」のお話です。

【前回の記事はコチラ】

ICU看護師として事例で考える鎮静と鎮痛のマネジメント

Nパパ

この記事はこのような人にオススメ!

  • ICU経験が3年目未満の人
  • 鎮静と鎮痛の違いが分からない人
  • 鎮痛の弊害が分からない人

前回の記事の中では「鎮静増量の前に鎮痛の評価をする」ということをお伝えしました。

鎮静のポイントとしては

  • 鎮痛優先で管理して鎮静を調整する(鎮痛ファースト)
  • 深鎮静は様々な弊害がある
  • 鎮静深度は必ず個別で決定する

ということでした。

今回は鎮痛薬のお話をしていきます。

この記事を読むことで

  • 鎮痛薬のキホンがわかります
  • 先行鎮痛の重要性がわかります
  • 鎮痛補助薬の重要性がわかります

ではいきましょう!

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Nパパ

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痛みの本質と患者への影響

痛みは健康な人にも現れる不快な症状の一つです。

強い痛みや持続的な痛みがあれば、健康な人でもQOL(生活の質)が低下します。

患者さんは疾患を抱えている中で、痛みが生じればさらにQOLが低下することは想像がつきます。

痛みについて痛み・不穏・せん妄のガイドライン(J-PADガイドライン)をまとめると

  • ICUにいる患者は安静時でも強い痛みを経験している
  • ICUにいる全ての患者で痛みを評価すべき
  • 痛みによって引き起こされるストレス反応は患者に有害事象を及ぼす

痛みの項目について最初の部分をまとめるとこんな感じです。

特に痛みの有害事象としては

  • 交感神経を賦活化し内因性のカテコラミンが増加
  • カテコラミンにより細動脈が収縮し組織還流不全から組織酸素分圧が低下
  • 異化(分解)が亢進し筋タンパクが分解→筋肉の衰退
  • ナチュラルキラー細胞の活性低下により白血球の活動低下→免疫応答反応の低下
  • 慢性疼痛に発展し活動性が低下→静脈血栓ができやすくなる

やっぱり痛みって良いことがないって分かりますね^^;

痛みの評価方法

ICUでは痛みの評価方法には様々なツールがあります。

原則は患者さんの自己申告です。

ということは「NRSやVAS」が基本になります。

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NRSは痛みを0〜10段階で表現する方法です。NRS>3で介入が必要と言われています。

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VASは海外ではメジャーですが、日本ではあまり馴染みがないと思います。

これは患者さんに指差してもらって、その長さで痛みを評価するもので、VAS>3cmで介入を必要とします。

出典:日本緩和医療学会

鎮静や意識障害によって自己申告できない場合はCPOTやBPSを使用して客観的に痛みを評価することが重要です。

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出典:日本版集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン

それぞれカットオフ値はCPOT>2、BPS>5とされ、カットオフ値以上の数値であれば、介入が必要です。

痛みの発現と鎮痛薬の作用機序

痛みは発痛物質が脊髄を通って最終的に脳に伝達されることで「痛み」として認識されます。

代表的な発痛物質である「プロスタグランジン(PG)」は覚えておきましょう。

なぜなら普段使用している鎮痛剤に関係があるからです。

鎮痛薬は種類によって作用する部位が異なります。

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例えば馴染みの深いNSAIDsです。

これはPG産生を抑制することで鎮痛作用を示します。

ただしPGは胃粘液分泌を増やす作用もあります。

NSAIDsはPG産生を抑制するので、鎮痛作用を発揮する一方で胃粘液分泌を抑制することにもなるので潰瘍形成などの副作用を生じます。

なのでクリティカルケア 領域では使いづらい(腎機能低下症例では使えないのもある)薬剤でもあります。

デクスメデトミジンにも鎮痛作用が期待されています。

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鎮痛剤の種類

鎮痛剤の種類には麻薬性鎮痛薬や非麻薬性鎮痛薬など種類は様々です。

最近では麻薬性鎮痛薬を含む様々な薬剤を組み合わせて痛みを取り除きつつ、薬剤の副作用のリスクを減らす「Multimodal Analgesia」が基本になります。

薬剤の特徴を解説します。

麻薬性鎮痛薬と非麻薬性鎮痛薬

フェンタニル

フェンタニル

集中治療ではポピュラーな薬剤の一つです。作用発現や消退が早く血管拡張作用がないため重症でも使用しやすい薬剤です。

  • 作用発現:1〜2分
  • 半減期:2〜4時間
  • 活性代謝産物がないのが特徴
  • 天井効果がない

活性代謝産物がないということは薬物が代謝(分解)された際に、分解された物の化学構造が変化し、毒性や薬理効果が増強することがないことを示します。

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麻薬拮抗性鎮痛薬と比較して、作用発現までの時間が短いこと、薬のキレが良いことが特徴ですね♪

フェンタニルには天井効果がないということを聞いて,痛みがあればどんどん薬を増量すれば良いの?

という疑問を持った方もいると思います。実際にはフェンタニルを増量することで腸蠕動が低下します。栄養と消化は1セットなので栄養に影響を及ぼします。

なので補助鎮痛薬を使用しながら痛みを抑えつつフェンタニル増量による副作用を抑えるということが大事です。

モルヒネ

モルヒネ
  • 血管拡張作用がある(循環への影響大)
  • 半減期が長く腎機能低下でさらに作用が遷延

モルヒネはがん領域では広く使われますが、血管拡張作用があることに加え、肝/腎で薬剤が蓄積するため集中治療領域では使うことが少ない薬剤です。

ECMOの患者さんではフェンタニルが膜に吸着して優位に減少する一方で、モルヒネは膜に吸着しにくい特性から、ECMO患者ではモルヒネが選択されることがあるようです。

アセトアミノフェン

アセトアミノフェン

昔は内服でしか使用することはありませんでしたが、最近では静注薬として頻用されます。

作用発現は15分と効果発現までは比較的早いです。

これは15分かけて投与した時に直後の血中濃度が最大になるため、効果発現は15分とされています。

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時々1時間とか30分かけて投与とオーダーが入っていることがあるので、先生にちょっとちょっと攻撃を仕掛けてます笑


アセトアミノフェン は補助鎮痛薬としてとても重要で、アセトアミノフェン を補助鎮痛薬として使用した研究は複数報告されています。

DEXACETトライアルでは、心臓外科の術後患者においてプラセボと比較してアセトアミノフェン 投与群(介入群)でせん妄の発生率が優位に低下したという結果でした。

今後ますますアセトアミノフェン の使用量が増えていくかもしれませんね♪

【ケタミンと血圧上昇】

ケタミンは解離性麻酔薬と呼ばれる種類の薬剤です。

呼吸・循環の抑制作用はなく、鎮静作用を有することに加えて鎮痛作用も発揮します。

ケタミンはカテコールアミンの遊離作用があるため、交感神経を刺激し血圧上昇・頻脈・気管支拡張作用があります。

見方を変えれば循環動態が不良なケースでも使用できます。

先行鎮痛は必要か?

先行鎮痛というのは、何か侵襲的な処置や痛みが予想される処置の前に、予め鎮痛薬を投与することです。

これについては経験的に実施している方もいると思いますが、ガイドラインでも推奨されています。

ただガイドラインにおける想定場面は胸腔ドレーン 抜去時という限定的な表現ですので、臨床へのインパクトは低いように感じます。

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Nパパ

術後の患者さんを受け持った時は、清拭などの前にアセトアミノフェン を投与することが多いです。もちろん実施する15分前です^^

やはり術後の患者さんはこれから離床!という方が多いので「体動=痛み」というイメージがついてしまうと、離床にも不安が強くなります。

なので出来る限り痛みは取り除くことが重要だと思っています。

ただし、離床の前に使用する場合には血圧低下に注意が必要だと思います。

アセトアミノフェン を使用した論文の中には、有害事象として血圧低下が生じたという記載もあるからです。

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まとめ

  • 痛みは自己申告が基本(NRS)
  • 自己申告できない場合は客観的な評価スケールで評価する
  • 痛みには様々な弊害がある
  • 鎮痛管理は複数の薬剤を組み合わせて管理する(Mulchmodal Analgesia)
  • 痛みを伴う処置の前には先行鎮痛を検討する

ということで今回は痛みと鎮痛薬についてお話ししました。

ガイドラインはインターネット上で誰でも見られるので興味がある方は是非リンク先のガイドラインを見てください♪

Nパパ

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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